第84回
過渡期に入った保険診療
最近開業医の先生から相談を受けることが増えてきた。どんな内容かはだいたい察しがつくでしょう?いろいろな言い方はあるけど、一言で言うと「もう少し売上げあげれないかなあ?」だ。もっと有り体に言えば「なんか自由診療うまくとりいれませんかね?」と言う相談だ。保険診療ではもはや削られることはあっても、増えることはない。患者数だって開業して安定してしまうと急に増えることもない。更に「マイナンバー対応」など手間とコストのかかることばかり増える。
この方たちは都市部や大都市近郊の先生方で、とくに開業してから日が浅い人が多い。中には開業してから何十年だが売上げの減ってきている診療所もあるが。
一方、地方の開業医は地域の独占企業的な方が多く、患者も安定しているし、保険制度ではコストの地域差が考慮されてないから、まだまだ経営的に困った状況にはなっていないだろ。極端な話、銀座と地方都市の田舎では、家賃人件費なんか何倍もちがうのにだ。他の業種では考えられないだろう。銀座のレストランと田舎の食堂が同じ値段だなんて。
ほんと地方の医師と、都会の医師の意識の乖離が激しいと思う。
そのことに関して、私の経験をお話しする。少し前の話になるが、東日本大震災のとき、東北のある市に診療所を開設して、仮設住宅の訪問診療していた時期があった。私の主催しているNPOの活動の一環としてやったことなのだが。(このNPO活動の話は脱線するには話が長くなるので、いつかの機会に譲るとして、モータースポーツ特にオフロード系のバイクの世界では有名な団体とだけいっておきますね。)
要は、診療所を開設したときだ。その地の医師会に入った方が良さそうと判断して、訪ねていった時のことだ。いきなり、「いつ来るのかと思ってたよ。」「どうして大阪の医療法人がここに診療所なんかつくるの?」とかなりの上から目線でやられた。しかも、会長とか役員の医師ではなく、「事務局長」のおっさんからだ。やっぱり田舎の医師会は名士なんだろうな。事務のおっさんでこれだから。この地の医師会も新規開業がまずなく、代々の開業医で独占してるから。だから、うちの開業はほんと何年(何十年?)ぶりかの出来事で噂になってたらしい。
保健所だって冷たかったもんなあ。申請の書類をなんだかんだ言って受け取らない。日本の役所でよくやる手で、「申請」だから書類上の不備がない限り受け付けなければならないのに、「受け取り拒否」で事実上の「認可」にしてしまってることが多い。
最後は「こいつら受け取らないと帰らないな。」と思ったらしく諦めて渋々受け取ったが、書類受け取らすのに3時間以上かかったよ。そのときは、医師会と一環になって「よそ者排除」なんだと感じた。こちらは避難所の巡回から、被災者の方が仮設住宅へ移行するに伴って、非常事態の自由診療(と言っても一円ももらってないからね。)から正式な医療制度の下でやるために訪問診療の形式にするため、診療所の開設をしただけなのだが。
しかも地元の開業医は仮設住宅への訪問診療など全く興味ないから、地元の所場荒らしするわけでもない。地元の開業医は、黙ってても決まった患者がやって来るし。各地から集められた、見ず知らずの被災者のためにわざわざ街からけっこう離れた仮設住宅への訪問診療など全く考えていないのだ。
まあ、こちらはボランティアなんだから、勝手にやってるわけで、別に手伝ってもらいたいとか、褒めてもらいたいとかいうわけじゃないが、毎月けっこうな持ち出しを抱えながら、現地雇用以外でも東京、大阪からもスタッフ派遣してるんだから、邪魔だけはしないでもらいたいたかったな。被災者の方々からは結構感謝されていたのだし。
まあ、少し長くなったが、かように地方ではまだまだ保険診療、医師会などの旧体制が堅固なわけだ。一方、都会部の保険診療の先生方は厳しい方が多い。私だって、これでも保険診療の診療所もやってるからよくわかる。患者数などは最初の1~2年したら伸びは止まってしまう。採算ラインまで患者数が伸びるまで、最近は1年以上かかることがある。それまで開業資金が持てばいいが、足りずに開業しながらバイトに行ってる先生も結構いると聞く。「診療所は一応トントンで回ってるんですが・・・」「まあ、いいじゃない?」「でも、自分の給料が出ないんですよ・・・」「それ、回ってると言わないから!」
そこで、自由診療に目が行くというわけだ。確かに美容健康などのレシピの点滴だって1万円ぐらい取れる。更に最近の美容でもない自由診療のクリニックでは「上精液」やら「エクスソーム」などとうたった点滴を数十万でやってたりする。
更に東京などでは「歯科」がこんな点滴などでもうけていたりする。一応「医科の責任者」として医師を登録しているのだが、実態は看護師もいないのに、何処で作ったかもわからない「試験薬」扱いのものを「医師の裁量権」でもって投与しているのだが、怖くはないのだろうか?特に歯科の名義貸しの先生は「医師」は自分一人なので、実施した医師というのが存在せずご自身の責任なのがわかっているのだろうか?歯科の先生は当たり前だが、ほんとびっくりするくらいい医療の基礎知識がない。注射や点滴でショックそれも迷走神経反射などの対応もできない。
一般の保険診療の開業医の先生方からしたら、とんでもない世界だと思う。
まあ、こんなところに大金はたいて通う人も通う人だと思うが。
歯科だけではないが、流石にひどい状況なのは厚生労働省も把握していて、この7月に一応規制がかかったのだが、この人たちは通達があったこと自体知らないと思う。雇われで、何も考えずに「オーナー」の言いなりの先生が多いからだ。
私の所は勿論、対応してますよ。大体一緒にやってる大学から規制がかかることも事前にきいてたからね。第一、ウチは製造からはっきりしてるオリジナルのものしか使ってないし。
もうひとつ、経営的な観点から自由診療を取り入れたい開業医の先生方に強調しておきたいのは、このコラムでも触れてきたように、「保険診療」や所謂「標準療法」では治せない疾患が治せるのだ。私としてはこれらの治療法を普及させたいと言う思惑もある。
この様にいろんな意味で、今日本の「保険診療」の過渡期だと思う。皆さんも感じてられるんじゃないですか?ただ、どの様に変わっていくべきかと示されてないから、普通に、真面目にやっておられる先生方が迷われているのだと思う。
どうです?無理のない範囲で大丈夫ですから、「自由診療」取り入れてみませんか?。
著者プロフィール
Dr.中川 泰一
中川クリニック 院長
1988年関西医科大学卒業。
1995年関西医科大学大学院博士課程修了。
1995年より関西医科大学附属病院勤務などを経て2006年、ときわ病院院長就任。
2016年より現職。
- Dr.中川泰一の
医者が知らない医療の話 - 86. マクロファージと不妊治療
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- 81. 中国出張顛末記
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- 79. マクロバイオームの精神的影響について
- 78. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅲ
- 77. マクロバイオームの遺伝子解析Ⅱ
- 76. 中国訪問記Ⅱ
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- 69. COVID-19感染の後遺症
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- 50. ヒト幹細胞培養上清液
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- 48. ワクチン騒動記Ⅲ
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