PGAツアーで活躍中の33歳の米国人選手、マックス・ホーマをご存じだろうか。
やや細めの体型で、あごひげが特徴的。優しそうな顔つきだが、彼のゴルフはとてもアグレッシブ。ガンガン攻めてバーディーやイーグルを奪い取るホーマのゴルフは、眺めているだけでも勇気と元気が沸いてくる。
南カリフォルニアのバーバンクで生まれ育ったホーマは、幼いころからゴルフクラブを振り始め、ジュニア時代から大活躍していた。
名門カリフォルニア大学バークレー校を経て、2013年にプロ転向。翌年からPGAツアーで戦い始め、2019年のウェルスファーゴ選手権で初優勝を挙げた。
そして、ホーマにとって通算2勝目となったのは、2021年2月にロサンゼルス近郊のリビエラCCで開催されたジェネシス招待だった。
ジェネシス招待はタイガー・ウッズ財団がサポートする「ウッズの大会」であり、優勝したホーマは表彰式で大会ホストのウッズからトロフィーを渡され、さらにウッズとホーマは2人仲良く並んで記念写真に収まった。
だが、その翌日、ウッズは同じロサンゼルス近郊で交通事故を起こし、瀕死の重傷を負った。
事故の直後は「ウッズの最も最近の写真」という意味で、ウッズがホーマとともに並んで写ったツーショット写真が世界中のメディアに使用された。そのせいでホーマは、栄えあるジェネシス招待の優勝者になったというのに、「ウッズと最後に並んで立った選手」などと評されたりもしていた。
そんな出来事さえ経験したホーマだが、彼は常に優しい表情を讃え、寡黙に、しかし強気にプレーを続けていった。
2021年の秋に3勝目を挙げると、2022年は年間2勝を達成。昨年は1月のファーマーズ・インシュアランス・オープンを見事に制し、通算6勝目をマークした。
今季は、まだ勝利こそ挙げていないものの、世界ランキングは8位(注:2月末時点)まで上昇。押しも押されもせぬワールドクラスのトッププレーヤーとして輝いている。
「生まれ故郷」に恩返し
ホーマが常に心がけているのは「お世話になった故郷への恩返し」だそうだ。
全米各地に点在するゴルフ場を統括している総本山はPGAオブ・アメリカで、その傘下には米国の各州別あるいは各地域別のPGAセクションという文科がある。
ホーマの故郷バーバンクはサザン・カリフォルニアPGA(SCPGA)と呼ばれるセクションだ。SCPGAは1924年に創設され、現在は1700人のPGAプロと合計500のゴルフ場やゴルフ練習場を組織している。
そのSCPGAの下でジュニアゴルファーを統括し、ジュニア大会を開催しているのは、1948年に設立されたSCPGAジュニアツアーだ。
SCPGAジュニアツアーは米国内で最大規模のジュニア対象ツアーとして知られており、ウッズやリッキー・ファウラーをはじめ、コリン・モリカワもザンダー・シャウフェレも、みなここから巣立って、PGAツアーのスター選手になった。
ホーマも「SCPGAジュニアツアーが無かったら、今の僕は無かった」と語り、「プロになったらSCPGAに恩返しをしたいと、ずっと思っていた」という。
そして昨春、ホーマは故郷のサザン・カリフォルニアで「マックス・ホーマ・インビテーショナル」というジュニア対象のチャリティ・トーナメントを初開催した。
昨秋には、米欧対抗戦「ライダーカップ」に米国チームのメンバーの1人として出場。ライダーカップでは、出場選手1人1人に「自分が寄付したい場所へ寄付する」という前提で20万ドルが授けられるのだが、ホーマは受け取った20万ドルのうちの半分の10万ドルを、古巣のSCPGAジュニアツアーへ寄贈した。
「お世話になった故郷サザン・カリフォルニアのジュニアゴルファーの育成に貢献できたら、僕はそれが何よりうれしい」
「第二の故郷」に恩返し
残りの10万ドルは、ホーマと愛妻レイシーの現在の住まいであり、夫妻が「第二の故郷」と呼んでいるアリゾナ州のフェニックス小児病院へ寄贈された。
ホーマ夫妻は昨年9月のライダーカップ以前から、アリゾナでがん患者やその家族を支援している団体「アリゾナ・キャンサー・ソサイエティ」と交流を持ち、同施設を頻繁に慰問していた。
ホーマは、かつてフィル・ミケルソンの相棒キャディを長年務めたベテラン・キャディ、ジム・“ボーンズ”・マッケイから、この団体を紹介されたのだそうだ。
アリゾナ・キャンサー・ソサイエティは、がん患者やその家族の支援を行なう団体だが、その支援の仕方は多岐に亘っている。
医学的なアドバイスや医療機関の紹介といった支援はもちろんのこと、経済的支援、精神的サポートも行なっている。
アリゾナ州スコッツデールにある本部は1万2000スクエアフィートを誇る壮大な近代施設。小児がんと闘う子どもたちが楽しく遊べるプレールームやがん患者がリラックスして趣味を楽しむアート・スタジオ、ムービー・シアター、食事を美味しく作ったり食べたりできるフード・パントリーなども完備されている。
がん患者の心を癒す「セラピー犬」をはじめとする、いわゆる「サービス・ドッグ」の手配や患者への手ほどきなども行なっているそうで、それほど優れた施設の維持・運営には、言うまでもなく高額な費用が求められる。
施設を慰問して、そうした現状を目の当たりにしたホーマは、だからこそチャリティに意欲を燃やしたのだそうだ。
バーディーやイーグルを獲るたびに寄付金を積み上げていくPGAツアー主催の活動にも日ごろから参加しているホーマは、そこで自身が積み上げた5万ドルをアリゾナ・キャンサー・ソサイエティに贈り、ライダーカップ後は「がんと闘う人々とサポートに尽くしている人々のために役立ててほしい」と願いながら、さらに10万ドルを贈った。
昨年、初開催した「マックス・ホーマ・インビテーショナル」の第2回大会は、松山英樹が優勝した今年のジェネシス招待の終了後に無事、開催できたそうだ。
心優しいホーマは、これからもアグレッシブなゴルフでバーディーやイーグルを獲り、そのたびに寄付金を積み上げ、勝利を掴み取るたびに、生まれ故郷や第2の故郷に「恩返し」の寄付をする。
カリフォルニアやアリゾナの人々は、そんなホーマを心の底から応援し、チャリティに尽くすホーマの物語を見聞きした全米中いや世界中の人々が「ホーマ頑張れ」と熱いエールを送っている。