
今年2月に開催されたPGAツアーのジェネシス招待は、タイガー・ウッズが大会ホストを務める「ウッズの大会」であり、賞金総額2000万ドルが授けられるシグネチャー・イベントの1つでもあった。
この大会の舞台は本来ならロサンゼルス郊外のリビエラCCだが、カリフォルニアが見舞われた大規模な山火事の影響を受け、今年は試合会場がサンディエゴ郊外のトーリーパインズに変更されて開催された。
その3日目。スウェーデン出身の25歳の新鋭、ルードビック・アベルグが3番ホールで見事、エースを達成。
大会からホールインワン賞として1万ドルが提供されたのだが、アベルグはカリフォルニアの山火事の被災地や被災者のために、その1万ドル全額を寄付することを発表した。
まだプロキャリア3年目を迎えたばかりの欧州の若者が、米国の被災地や被災者のためにポンと寄付したことは、米国でも世界でも「素晴らしいスポーツマンシップだ」「アベルグはプロゴルファーとしても人間としても素晴らしい」と絶賛され、大きく報じられた。
そんな出来事があった翌日。ジェネシス招待の最終日は、そのアベルグが見事、逆転勝利を飾った。TV中継の視聴者数は一気に増え、今季のPGAツアーで最高の数字を記録した。
アベルグにとって、ジェネシス招待での優勝は、通算2勝目。若さと強さを併せ持つアベルグに社会貢献の意識や姿勢が見て取れたことは、彼を「強い選手」から「一流のアスリート」に押し上げたと言っていい。
アベルグは名実ともに一流の仲間入りを果たした。
スウェーデンから米国へ
北欧のスウェーデンで生まれ育ったアベルグは、幼少時代はサッカー少年だったそうだ。しかし、13歳からゴルフクラブを握り始めると、めきめき上達。地元のハイスクールのゴルフ部で活躍していたところ、母国のナショナルチームに迎えられ、ナショナルハイスクールへ転校。
それからのアベルグは、ゴルフのエリート教育を受けてさらに腕を上げ、大学は米国のテキサス工科大学へ留学した。
大学時代は数々のタイトル、記録を総なめにした。優れた大学生ゴルファーに贈られるベン・ホーガン・アワードを2年連続で受賞したのは、スペイン出身のジョン・ラームに続き、アベルグが史上2人目となった。
さらにアベルグは、フレッド・ハスキンス・アワード、ジャック・ニクラス・アワードなど、レジェンドの名が冠された賞も、ほぼ独占状態となり、さらには世界アマチュアランキングでも、PGAツアーが米国の大学生ゴルファーを対象としているPGAツアー・ユニバーシティでも、堂々1位に輝いた。
その資格で、2023年のプロ転向と同時にPGAツアー出場資格を獲得。2023年6月のRBCカナディアン・オープンがプロキャリアの出発点となった。
同時並行で欧州のDPワールドツアーにも出場し、早々にオメガ・ヨーロピアン・マスターズで初優勝を挙げた。
伝統的な米欧対抗戦のライダーカップにも初出場。大活躍して大型新人ぶりを世界にアピールすると、その2か月後にはRSMクラシックを制してPGAツアーでも初優勝。世界ランキングは4位まで上昇し、瞬く間に世界のトッププレーヤーの仲間入りを果たした。
昨年は優勝こそなかったが、メジャー大会のマスターズでは優勝争いに絡んで2位に食い込んだ。
そして3シーズン目の今年、ジェネシス招待で逆転勝利し、通算2勝目を挙げて、その実力を世界に見せつけた。
だからこそ巡ってくる勝運
アベルグは、まだ25歳と若いが、社会貢献やチャリティに対しては、PGAツアーにデビューした2023年当時から積極的だった。
初優勝を挙げたRSMクラシックは、PGAツアー選手の中でも社会貢献に最も意欲的とも言えるデービス・ラブがホストを務める大会として知られており、そんな「ラブの大会」で記念すべき初優勝を挙げたことは、アベルグの社会貢献に対する意識をさらに高めることになったのだろうと私は思う。
かつて、フィル・ミケルソンは社会貢献を積極的に行なうアーノルド・パーマーの姿を目にしたことで、「僕もパーマーのようになりたい」と思ったそうだ。
英国出身のジャスティン・ローズもパーマーのお膝元であるベイヒルでパーマー夫妻の社会貢献活動に直に触れて、「僕らもパーマーのように人々の役に立ちたいと思った」。
RSMクラシックで初優勝し、大会ホストのラブと並んで表彰式に立ったアベルグは、この大会で獲得したバーディーやイーグルの数に応じた寄付を行ない、そんな若き外国人チャンピオンは、このころから心も姿勢も「大型新人」と注目されていた。
母国スウェーデンに帰ったときは、幼少時代から練習させてもらったホームコース、エスコフGCに今でも必ず足を運び、ジュニアゴルファーやメンバーたちと交流しているという。
また、母国のみならず、欧州のゴルフ界に「何かの形で貢献したい」と常に願っているそうで、昨年はウェールズで開催されたチャリティ・ゴルフトーナメントにも参加。メンバーやジュニアゴルファーたちと笑顔で触れ合い、アドバイスも行なって、積極的に交流していた。そうした活動も社会貢献の1つだと考えていい。
そんなアベルグが、今季はPGAツアーの開幕7試合目で通算2勝目を挙げ、400万ドルという破格の優勝賞金を手に入れたのだが、彼が3日目にエースを達成して授けられたホールインワン賞の1万ドルを迷うことなく全額寄付したことは、優勝に勝るとも劣らない賞賛に値する行動だった。
いや、3日目のホールインワン賞の1万ドルを惜しげもなく寄付したアベルグだからこそ、翌日の最終日、彼は素晴らしいパフォーマンスを披露し、見事な逆転勝利を挙げることができたのではないか。
私は、そう感じている。